円錐角膜の治療(角膜クロスリンキング)

角膜クロスリンキング

角膜クロスリンキングは2003年にドイツで開発された治療法です。角膜の大部分を占めている角膜実質層は主にコラーゲン繊維でできています。この治療では長波長紫外線に対するリボフラビン(ビタミンB2)の感受性を利用して、角膜実質コラーゲン線維の架橋を増やし、強度をあげることによって、角膜形状を保持します。円錐角膜、レーシック後角膜拡張症、ペルーシド辺縁角膜変性などの進行性角膜変形疾患の進行を人工的に停止させるという新しいコンセプトの治療です。

角膜クロスリンキングは現在までに世界中で20万眼以上行われており、有効性と安全性が確立されてきました。角膜クロスリンキングが広く普及してきたヨーロッパでは、角膜移植適応眼における円錐角膜眼の割合が半減したとも言われています。近年試薬と機械の進化により、標準法の欠点を改善させた改良法も開発され、角膜クロスリンキングの新たな可能性が期待されています。

角膜クロスリンキングの手術方法

1) 標準法

標準法の手順は以下通りになります。リボフランビンを角膜実質内に浸透させるためにバリア機能の強い角膜上皮を剥離する必要があることと、紫外線による角膜内皮障害を予防するために照射時の最薄部角膜厚が400μm以上であることが重要なポイントになります。

  •  点眼麻酔を行います
  •  角膜上皮を剥離します
  • 等張性0.1%リボフラビン点眼液を30分間点眼します
  • 角膜厚を測定します
  • 400μm以上の場合:等張性0.1%リボフラビン点眼液を継続点眼します
    400μm未満の場合:低張性0.1%リボフラビン点眼液を400μm以上になるまで頻回点眼します
  •  紫外線照射装置にて、370nmの紫外線を8mmの照射径、3mW/cm2の照射強度で30分間照射します(総エネルギー5.4J/cm2)
  • 保護用コンタクトレンズを装着し、抗生剤を点眼します

2) 改良法

 標準法の短所として、1時間以上に及ぶ手術時間の長さと、角膜上皮掻爬に伴う疼痛、易感染性、角膜ヘイズ、無菌性浸潤等の合併症が挙げられます。前者を改善させるために高出力を用いる短時間照射の方法(高速法)、後者を改善させるために角膜上皮を剥がない方法(経上皮法)が開発されました。

  1.  高速法
    高速法は高出力を用いる短時間照射の方法です。現在複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のクロスリンキング機種が発売されており、当院で使用しているAvedro 社のKXL○Rは世界最短の2分40秒の照射時間で手術可能です。高速法の効果は標準法とほぼ同様と報告されています。
  2. 経上皮法
    経上皮法は角膜上皮を剥がない方法です。角膜上皮を剥ぐ代わりに、角膜上皮のバリアを破壊し、薬剤の浸透性を上げる添加物を含む強化リボフラビンを用い、リボフラビンを角膜実質内に浸透させます。経上皮法の効果は標準法よりやや低いが、上皮剥離に伴う合併症が起きないため、視力が良好な初期症例にも適します。また、角膜上皮の厚さを含む分、適応は標準法より広がり、かなり進行した症例も治療が行えます。

角膜クロスリンキングの安全性

角膜クロスリンキングは10年以上に渡る有効性と安全性が報告されており、世界でも高い評価を受け、注目されている最新の医療技術です。
照射される紫外線は安全な強さにコントロールされており、副作用もありません。この安全性の高さから、最近は円錐角膜の治療だけでなく、レーシック手術でも同時に行われるようになってきています。これにより手術後の合併症抑制や近視の戻りを予防する治療が可能になっています。

ご注意

角膜クロスリンキングは、円錐角膜の進行を抑える治療です。治療後に角膜形状や視力が改善するものではありません。
手術後の数日間は、目がゴロゴロする、しみる、涙が出る、痛むなどがあります。
ごくまれですが、角膜の濁りや角膜内皮細胞に障害が起こる可能性があります。
すべての円錐角膜の進行が完全に抑えられるわけではありません。治療を受けても進行するケースが存在します。
登場して間もない治療法であるため、10年以上の長期予後に不明な点があります。
角膜上皮を剥がす手術方法では、術後に角膜上皮細胞が再生するまでは一時的な視力の低下が起こります。視力がある程度戻るには、通常数週間かかります。

角膜クロスリンキングの適応

適応
  • 円錐角膜をはじめとする進行性角膜変形疾患で、現在進行している
  • 角膜の厚さが規定値以上
不適応
  • 円錐角膜の進行が止まっている
  • 角膜の厚さが規定値以下
  • 再発性上皮障害
  • ヘルペス性角膜炎
  • 妊娠・授乳中

診察と手術の流れ

  1. カウンセリング
    角膜クロスリンキングが適応となり、手術をご希望される方に医師がくわしくご説明し、ご質問にお答えします。その後、手術スケジュールを決定します。
  2. 手術
    角膜クロスリンキングは局所麻酔下の日帰り手術になります。
    手術日にご来院いただきます。
    前述の方法で手術を行います。当院では円錐角膜の実際の状態に合わせて、上記の手術方法から最善の手術方法を提案させて頂きます。
    手術時間について、標準法は約1時間、高速法と経上皮法を併用した手法では約15分になります。

手術後の注意事項

手術後の検診

手術翌日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月に検診が必要です。その後、3ヶ月から半年ごとに定期的に通院していただき、進行の有無を確認します。

入浴・洗髪・洗顔

手術翌日の診察後から可能です。ただし、眼に水が入らないよう、十分にご注意ください。

スポーツ

1週間後から可能です。ただし、水泳など水中の競技や激しいスポーツは1ヶ月後からになります。

お仕事

翌日から可能です。痛みや視力の状態などによって、しばらくお仕事に支障が生じる可能性もあります。手術後の一時的な視力低下は徐々に回復していきますが、回復までに要する時間には個人差があります。

眼にゴミが入らないよう十分注意を

ただし人込みやホコリっぽい場所に行かれる場合、眼にゴミなどが入らないよう注意する必要があります。花粉ガード眼鏡などを着用するのも有効です。

治療料金(税込)

片眼の場合 165,000円
両眼の場合 330,000円